遺産承継|空家になった実家、農地、お墓の相続について円満に協議が成立したケース
状況
亡くなった母親Aさん(女性・82歳)の相続に関して、転勤族である長男と地元に残って親の面倒を看た二男のお二人から遺産分割の相談を受けました。Aさんは旧家の跡取り娘として婿養子を迎えた方ですが、夫を亡くし、女手ひとつで2人の息子を育てつつ農地を守ってきました。従って、相続財産の半分は不動産で、内容は自宅と農地、あとの半分が金融資産でした。
長男は転勤族です。都内にある妻側の親族との関係が濃く、定年になっても故郷に帰るつもりはないと明確に言っています。一方、二男は地元勤務の会社員、結婚をしておらず、子供も居ません。このような遺産分割においては、空家になった実家と農地の承継、それに加えて今後、祖先の墓をどうするのかが悩ましい問題です。
司法書士の提案&お手伝い
相続人2名とも、農業を引き継ぐことはできないという事情がはっきりしていたので、売って得た金銭を相続人2名で分ける「換価分割」という方法を選択しました。不動産を処分するには担い手が必要になりますが、その役割はやはり地元にいる方の動き易いし、相場等の情報も得易いので、次男が担うことにしました。
両親ともに亡くなり、実家が空家になる本ケースに関しては、「これから誰が墓守りをするのか」という課題も解決しておかなければなりません。それによって遺産分割(財産分け)にも大きな影響があります。当面は長男が承継するが、その先に引き継ぐ次世代は居ないことを確認し、将来的には墓じまいをすることを相続人の二人で合意しました。
上記の合意を踏まえて、遺産である金融資産の分配について取り決めました。
預貯金については、被相続人の生前に介護を一人で担ってきた二男の負担を考慮して、次男側にその分を上乗せした分割にしました。その一方で、祭祀財産を承継する負担と将来的に発生する墓じまいの費用を金銭額に見積もって、その分を長男側の相続する額に上乗せしました。
これらを内容とする遺産分割協議書を作成しましたが、それに合わせて「祭祀財産の承継に関する合意書」を作成しました。祭祀財産とは、お墓や位牌、仏壇などのことです。
祭祀財産の承継に関する合意書とは、平たく言えば、これから先のお墓や仏壇の引継ぎ方に関する合意書です。
両親を亡くして、お墓などを受け継ぐ人は誰なのか?今後どのようにお守りしていくのか?そのために必要になる費用はどのようにするのか?などを遺産分割する際にしっかり皆んなで話し合って決めました。
そして、それを合意書という形で文書化したのです。
結果
兄弟2人で、被相続人を含めて祖先の祭祀についての基本方針を遺産分割の際にしっかり話し合い取決めをしました。
10年先、20年先になることですが、いずれ墓じまいをすることについても双方合意できました。「跡取り」という立場は、家督相続の時代の名残り、法律の上では特別な負担も保護もありません。兄弟姉妹も親の庇護を離れて成人すればそれそれが別の生計を立てて、自分の人生を歩んでいきます。
「祭祀財産の承継」は民法で「慣習に従う」となっています。では、我が家の場合はどうなのか?当事者間でも今後のことを相互に確認して「○○がやるだろう」「○○がするのが当然だ」ではなく、皆んなの認識を揃えて納得感の中ですることが大切だと思います。一昔前よりはるかに生活圏が広くなっていて、家族が日本全国へ、或いは海外へ、地元を離れて生活するようになっている中、早め早めの対策検討が必要になっています。